青い鉄と柔らかな鉄

その昔、京都の栗田口に住んでいたとされる栗田口久国は、後鳥羽院に招聴きれ、番鍛冶になった名工と言われています。この名工の刀剣について、ある鑑定書は「肌青し」と説明していると言います。実際に目にした多くの人も「青く澄んだ鉄」に見えるという言葉を残していると伝えられているようです。その青さは、観る者の心を引き込むような魅惑を覚えると言われており「三条宗近」「栗田口一門」「新藤五国光」「正宗」がこの魅惑の「青い鉄」を遺していると言われています。鉄は、手の入れ方、かけ方によって、さまざまな表情を見せると考えられます。手を掛ければ掛けるほど、幾千幾多の顔を見せてくれると言います。それが、刀工はもちろん、多くの人が鉄に感じている最大の魅力なのではないでしょうか。また「鉄は熱いうちに打て」という諺は、ご存知でしょう。これは、人と鉄との関わりの深さを示していると言っても過言ではないでしょう。炉で熱した鉄塊は、鉄床の上で金槌によって打たれ、見る間に形を変えていくと言われます。昔は、鍛冶屋などもあり、そこで鍬や鎌を打つのを、近くの子供達が飽きもせず眺めていたということもあったようです。現代、人間国宝とされている刀匠だった方は、諸々の道具を巧妙に作っていたそうです。小さな小刀や火箸などは序の口、刀剣の土置きに使う薄い鉄ヘラや、象牙に彫刻を入れる細い錐や彫刻刀などを実に見事に作っていたと言います。鉄床の上で、小さな金槌一本で、あらゆるものを自在に作り出すのは、何よりも面白かったに違いありません。

一般的に、鉄は堅いというイメージがあると思います。しかし、日本刀の鉄は、実は堅くないそうです。特に名刀は柔らかいというから不思議です。日本刀の表面は、小さな抗でも気になるほど研ぎあげ、一度付いた抗は砥石を当てて研がなければ消えないと言われているほどのようです。長く手入れをし続けるのは至難な技かもしれませんね。